吾輩、時計沼にハマる。
吾輩は猫である。いや、猫のように気まぐれに、そしてなぜか光るものに惹かれる、そんな中年サラリーマンである。名はまだ無い——というと文豪っぽくなるが、現実は名刺にしっかり「営業課・田中」と書かれている。
この物語は、そんな吾輩が「グランドセイコー メンズ 人気モデル」とGoogleに打ち込み、まんまと“時計沼”にハマっていく悲喜こもごもである。ユーモア?あるかもしれない。涙?若干ある。だが一つだけ確かなのは、
「あの瞬間、確かに吾輩の左手首は高鳴っていた」ということ。
「きっかけは、あの上司の一言だった」
その日、吾輩はいつものようにオフィスの片隅でパソコンと格闘していた。BGM代わりのキーボード音、機嫌の悪いプリンタ、部長の咳払い。
そんな日常のなか、ふと隣の席の上司が吾輩の腕元を見てつぶやいた。
「腕時計、そろそろ“ちゃんとしたの”つけたら?」
見下ろせば、そこにはチープカシオ。軽くて正確、だが確かに“ちゃんとしたの”ではないのかもしれない。
「……は、はい」
適当に流したつもりが、その言葉は吾輩の中に棘のように残った。
「ちゃんとした時計」。
その晩、帰宅して即スマホを手に取り、検索窓に入れた。
「グランドセイコー メンズ 人気モデル」
出てきたのは、ただの腕時計ではなかった。
「国産時計の誇り」
- SBGA211(通称:スノーフレーク)
- SBGX261(クォーツの名機)
- SBGA413(桜吹雪のダイヤル)
どのモデルも「職人の魂」「秒針の流れが滑らかすぎる」「一生モノ」など、妙に詩的な言葉で語られている。特にSBGA211のスノーフレークは、日本の冬を切り取ったような文字盤だという。
画像を見た瞬間、吾輩の心は動いた。
いや、動かされた。
だが、たとえばスーツを3着買えるくらいの価格。気軽に「ポチる」には、それなりの決意が要る代物だった。
「さすがに無理か……」
そう思いながらも、時計レビューサイト、YouTube、価格コム、そしてメルカリを彷徨う日々が始まった。
「中古ショップで運命が動いた日」
ある土曜日。雨がしとしと降るなか、何気なく立ち寄った中古時計専門店。店のガラスケースの中で、白く輝く何かが吾輩を見つめていた。
SBGA211。スノーフレーク。
中古だが、状態はほぼ未使用。保証書もあり。
心臓が高鳴る。
その時、店員さんがそっと声をかけてきた。
「ご試着、されますか?」
「いえ、今日はちょっと……」と断る予定だった。
でも、口が勝手にこう言った。
「お願いします。」
気づけば、吾輩の左手首にスノーフレークが乗っていた。
白く冷たいはずのステンレスが、なぜか温かい。
「心の葛藤と、妻の目」
店を出た吾輩は、まるでプロポーズを終えた青年のように顔が火照っていた。
「……買ってしまった」
ローン?いや、支払一括だ。翌月のクレジット明細が少しだけ怖かった。
帰宅して妻に報告するか迷ったが、正直に言うのが吾輩の信条だ。
「……実は、時計を」
妻:「それ、いくらしたの?」
「中古で……(モゴモゴ)」
妻:「それ、本物?」
それはある意味、最大の褒め言葉かもしれない。高級時計が、ついに妻の“審美眼”を惑わせたのだ。
「グランドセイコーが語りかけてくる」
それ以来、吾輩の朝は変わった。
通勤前、時計を巻く瞬間に気が引き締まる。
満員電車のざわつきが、秒針の静けさで少しだけ和らぐ気がした。
そして取引先の会議室でふと袖口から見えたスノーフレークに、相手の目が一瞬止まる。
「それ、グランドセイコーですか?」
そう聞かれた瞬間、吾輩は少し背筋を伸ばし、こう答える。
「はい。いい時計ですよ。」
だが本当はこう言いたい。
「口が勝手にこう言った結果、手首に乗ってきたんです」と。
吾輩、グランドセイコーと共に生きる
あの日、中古時計店でスノーフレークと目が合ってから、吾輩の生活は少しずつ、しかし確実に変わっていった。
「ただの時計じゃない。これは“共に時を刻む相棒”だ」
そんなセリフを口にしそうな自分が、ちょっと気持ち悪い。でも、嘘じゃない。
「時計があるだけで、景色が変わる」
朝、目覚ましが鳴る前に起きるようになった。 最初に見るのは天井ではなく、サイドボードの上に置かれたスノーフレーク。
ブレスレットのステンレスに朝日が反射して、部屋全体がほんの少しだけ高級に見える。
出勤前、袖を通すシャツも時計に合わせて選ぶようになった。
以前は「シワが目立たなければOK」だったのに、今は「スノーフレークの上に映える色か?」と真剣に悩む。
つまり——時計一つで、生活全体に緊張感と美意識が宿るのだ。
「グランドセイコーを持つ者の覚悟」
最初は完全に“見栄”で買った。だが、時計の精度、質感、静かに滑る秒針、 そういったディテールが「お前もそれに見合う人間になれよ」と語りかけてくる気がする。
清水の舞台から飛び降りるレベルの時計が、語りかけてくるなんて、ちょっとホラーかもしれない。
仕事でも、ちょっとした気遣いを忘れなくなった。 社内で「田中さんって最近、変わりましたよね」と言われた。
何が変わった?
たぶん、秒針の動きに追いつきたくなったんだ。
「妻のリアクション:第2章」
あの時、「それ本物?」と疑った妻。 今では、朝出かけるときにこう言ってくれるようになった。
「今日も“あの時計”つけるの?」
これはもはや、認知された“家族の一員”といってもいいだろう。
そして驚くべきことに、妻が「私も時計欲しいかも」とつぶやいたのだ。
そのとき、口が勝手にこう言った。
「グランドセイコー、レディースモデルもあるよ?」
やばい。また買ってしまうのか、吾輩。
「人気モデルをレビューしてみた」
吾輩の相棒はSBGA211だが、ここで他の人気モデルも軽くレビューしておこう。
1. SBGX261(クォーツ)
・価格:高級時計のなかでは「初めての1本」に選ばれることが多い価格帯 ・特徴:シンプルでミニマル。スーツとの相性◎ ・おすすめ:初めてグランドセイコーに手を出す人向け
2. SBGA413(四季 春 桜)
・価格:一目惚れしてしまうと、後戻りできなくなる価格帯(ご利用は計画的に) ・特徴:ほんのり桜色の文字盤。芸術品。 ・おすすめ:アート感覚を求める人、春好きな人
3. SBGH273(四季 秋 深藍)
・価格:その輝きと深みは、簡単には手に入らない“本物志向”を象徴する一本 ・特徴:深い藍色のダイヤル。夜空のような美しさ ・おすすめ:大人の男に似合う。渋さの極み
「最後に伝えたいこと」
もしあなたが、ただ時間を知るためだけに時計を選ぶなら、スマホで十分だ。
だが、時間に“向き合いたい”と思ったら、グランドセイコーを選んでほしい。
国産最高峰の技術と美意識が詰まった時計は、持ち主の背筋を自然と伸ばす。
吾輩が時計を買って変わったのではない。
時計が、吾輩を変えてくれたのだ。
そう言った上司は、今日もApple Watchをしている。
でも吾輩は、あえて何も言わない。
ただ静かに、スノーフレークの秒針の音に耳を傾ける。
——シャアアアア……(流れるような音)
それが、吾輩の日常の音なのだ。