吾輩が初めてベントレー コンチネンタルGTの中古車に出会ったのは、都心から少し外れた高級車専門のディーラーだった。夕暮れの薄暗がりの中で、その漆黒のボディは静かに佇み、街の喧騒をよそに威厳を放っていた。
車好きならば一度は夢見るこのシルエット。吾輩も例に漏れず、吸い寄せられるようにその車の前に立ち尽くしていた。
見た目だけではない、パフォーマンスへの期待
一瞥しただけでわかる。これはただの中古車ではない。ベントレー コンチネンタルGTは、まるで時を超えて存在する芸術品のように輝いていた。
細部に至るまで計算し尽くされたデザイン。フロントグリルのメッシュパターンから、流麗なサイドライン、リアに至るまで、どこを切り取っても完璧な造形美がそこにはあった。
だが、ただの見た目だけで惚れたわけではない。吾輩が狙っていたのは、そのパフォーマンスだ。W12エンジンを搭載したこのモデルは、中古とはいえその存在感を失っていない。
最高出力635馬力、0-100km/h加速わずか3.7秒。スペックシートを見ながら、吾輩の鼓動は高鳴った。まるで背中を蹴飛ばされるような加速感が目に浮かぶ。
試乗体験 – 重厚感のある加速と静粛性のギャップ
試乗の申し出を断る理由はなかった。エンジンをかけた瞬間、その重厚なサウンドが胸の奥底まで響き渡る。まるで深海から響く低音のようだ。
アクセルを踏み込むたびに背中を押され、車体が路面をかき分けて進んでいく。その滑らかさ、パワーの余裕、どれを取っても他の車とは一線を画していた。
だが、吾輩が最も驚かされたのは、その静粛性だった。外の喧騒が一切聞こえない。分厚いウィンドウ、吸音性の高い内装材、すべてが計算され尽くしている。
アクセルを踏み込めば、轟音が響くはずなのに、車内はまるで高級ラウンジのように静寂そのもの。これがベントレーの真髄かと、吾輩は思った。
中古車でも際立つコンディション
走行距離は約3万キロ。年式は5年前のモデルだが、内外装のコンディションは驚くほど良い。前オーナーが相当手をかけていたのだろう。
革シートの質感は新品同様。ヘッドレストに刻まれた「B」のエンブレムが、その高級感をさらに際立たせている。
手が届く価格帯か、それとも夢のまた夢か？
価格はもちろん、庶民には到底届かないレベルだ。しかし、新車価格からすれば破格とも言える設定。購入資金を計算する吾輩の脳内では、現実と憧れの間で天秤が揺れていた。
吾輩が購入資金の算段に頭を悩ませている最中、友人のケンジが現れた。ケンジは車に関しては無知だが、やたらと評論家ぶる癖がある。案の定、彼はベントレー コンチネンタルGTの前で腕を組み、何やら偉そうに唸っている。
「おお、これは…フェラーリか？」
吾輩はため息をつく。「違う。ベントレーだ。」
「え、ベントレー？ まあ、どっちも金持ちの車ってことだな！」
ケンジはそう言いながら助手席に乗り込もうとする。「おい、試乗なら俺も乗せろよ。どんなに快適か、俺がジャッジしてやる。」
試乗開始！重厚感のある加速を体感
仕方なく吾輩はディーラーに確認を取り、ケンジを助手席に乗せて再び試乗コースへと向かった。エンジンをかけると、深海から響くような低音が再び車内を包む。
「おお、これがベントレーの音か！」とケンジは大袈裟にリアクションする。「なんか、低音が耳に優しいね。眠くなりそうだ。」
「お前、寝るなよ。これ、最高出力635馬力だぞ？」
アクセルを軽く踏み込む。路面の凹凸を一切感じさせない滑らかな走り。だが、その一方で確かな加速感が背中を押し込む。「どうだ？」と吾輩が尋ねる。
飛行機みたいな加速感に興奮するケンジ
ケンジは目を閉じて、「すごいねぇ。でも俺の自転車もこんな感じだよ。」
吾輩は半ば呆れつつも、その後もアクセルを調整しながら走り続ける。高速道路に出ると、今度はさらにアクセルを踏み込む。すると、コンチネンタルGTはまるで滑空するようにスムーズに加速していく。
「おい、飛行機みたいだな！」とケンジが興奮気味に叫ぶ。「窓を開けたら、空も飛べそうだ！」
ギャグはこれで十分だろう。吾輩は内心そう思いながらも、再び冷静に車の挙動に集中した。ハンドリングの応答性、ブレーキの効き、そして車内の静粛性。どれを取っても隙がない。中古車とは思えないほどのコンディションだ。
人生一度きりの決断、その行方は？
試乗を終えてディーラーに戻ると、ケンジは助手席から降りながら、「これ、買うの？」と尋ねてきた。
「まだ分からん。だが、金額次第では…」
吾輩は再び価格表を見つめる。数年前のモデルとはいえ、新車価格の半額程度。しかし、その半額でも庶民にとっては莫大な金額だ。
ケンジが吾輩の肩を叩いて言う。「買っちまえよ。人生一度きりなんだからさ。」
一度きり。それは確かにその通りだ。しかし、冷静に考えれば、この金額があれば他にもできることが山ほどある。旅行、家のリフォーム…。
だが、吾輩の心にはコンチネンタルGTの滑らかな走行感覚が未だに残っている。あの加速感、あの静粛性、そして重厚感。あれほどまでに感動させられた車は、過去に存在しなかった。
「どうする？ お前の人生のターニングポイントだぞ！」とケンジがニヤリと笑う。
吾輩は再び車の前に立ち、眩しく輝くエンブレムを見つめた。買うのか、買わないのか。現実と憧れの天秤は、まだ揺れ続けているのだった。
人生一度きり、買う？買わない？
「おいおい俺、どっち・なん・だい！」
だが、気がつけば吾輩の口は勝手に動いていた。
「…すみません、この車、買います。」
え？吾輩の声だ。驚いたのは自分自身だった。ディーラーの担当者も一瞬キョトンとした顔をして、それから営業スマイルを浮かべる。
「ありがとうございます！契約の手続きを進めさせていただきますね！」
ケンジが隣で目を丸くしている。「おい、本当に買うのか？」
「いや…いや、違う！待て、今のは…！」と吾輩は慌てて言葉を継ぐが、すでに担当者は書類を取りにバックヤードへ消えてしまった。
吾輩の頭の中では現実と憧れの天秤がカランコロンと音を立てて傾いていく。貯金額を脳内で計算しながら、現実的な支払い計画が脳裏をかすめる。だが、先ほどの走行感覚が、耳の奥で囁き続ける。
「お前の人生に、こんな走りを味わう機会が他にあるか？」
ケンジが再び肩を叩いてきた。「おい、大丈夫か？お前、変な汗かいてるぞ。さっきの発言、取り消してもいいんだぞ？」
吾輩は唇を噛む。だが、気づけば拳を握りしめていた。
「いや…買う。人生一度きりだ。」
ディーラーの担当者が戻ってきた。「それでは、お支払いの方法についてですが…」
吾輩は意を決して財布を取り出す。手は震えている。だが、どこか清々しい気持ちも同時に湧き上がってきた。ケンジは隣で「おいおい、大丈夫かよ」と心配そうに見つめている。
だが、吾輩は笑顔で言った。「これからの人生、コンチネンタルGTと一緒だ。」
そう言い放つと、吾輩は胸を張って契約書にサインをしたのだった。
まとめ
ベントレー コンチネンタルGTの中古車との出会いは、吾輩にとって一目惚れのような衝撃だった。高級車専門ディーラーで目にしたその漆黒のボディは、美術品のような存在感を放ち、心を強く引き寄せた。
しかし、見た目の美しさだけでなく、その走行性能も圧倒的だった。W12エンジンが生み出す加速感と、驚くほどの静粛性が吾輩を虜にする。
友人ケンジの助言や煽りも相まって、購入の決断を迫られる吾輩。現実的な資金計画や支払いのプレッシャーに悩みつつも、心の中ではその加速感が忘れられない。迷い続ける中で、ついに吾輩の口から飛び出した言葉は、「この車、買います。」
現実と憧れの間で揺れ動きながらも、最終的にベントレー コンチネンタルGTを手にすることを決意した吾輩。
人生は一度きり。胸を張ってサインを交わす瞬間、未来への期待と高揚感が胸を満たす。その決断が、この記事のクライマックスとなっている。
